「心の理論」の発達にみられる普遍的構造と文化差~日独の子どもを対象とした国際比較研究~
学芸学部リベラルアーツ学科 辻 弘美 教授は、大阪樟蔭女子大学・鹿児島大学・フェフタ大学(ドイツ)による国際共同研究において、日本とドイツの子ども(8~12歳)を対象に、「相手の考えや気持ちを理解する力(心の理論)」の発達について比較研究を行いました。本研究成果は、国際的に権威のある発達心理学誌『Child Development』に掲載されました。
この研究のポイント
- 日本とドイツの子ども(8〜12歳)計約800名を対象に、「高次の心の理論(AToM)」の発達を比較
- 文化を超えて共通する3つの因子構造を確認し、心の理論に普遍的な認知的枠組みがあることを初めて実証
- ドイツの子どもは、再帰的な心の理解や規範認識において早期に高い傾向
- 日本の子どもは、多様な立場や視点をくみ取る感受性に強みを示す
- 研究成果が、国際的学術誌 『Child Development』(2026年4月15日)に掲載
研究の背景
他者の考えや気持ちを推測する能力「心の理論(Theory of Mind)」は、人と関わりながら社会で生きていく上で欠かせない認知能力です。これまで、幼児期における基礎的な心の理論の発達については多くの研究が行われてきましたが、小学生期以降に必要とされる、より高度な心の理論(複雑な推論・規範の認識、あいまいな状況への対応など)の発達については、研究尾蓄積が十分ではありませんでした。特に、文化の違いに着目した比較研究は、世界的にも少なく、重要な課題とされていました。
研究の内容
辻教授ら本研究では、2つの調査を実施しました。
研究1では、鹿児島市内の小学校に通う401名(8〜12歳)を対象に、紙媒体による高次(ToM)の心の理論測定課題を実施し、社会的推論・規範認識・あいまいさ推論の3領域を評価しました。
研究2では、傾向スコアマッチングという手法を用いて、日本の児童148名とドイツの児童148名を対応させ、両国のこどもを直接比較しました。
その結果、ドイツの子どもは低学年の段階から、他者の考えを重ねて推測力や、社会的なルール・規範を理解する力において高い点を示しました。一方で、日本の子どもは、複数の立場や視点をくみ取りながら状況を理解する感受性が、時間をかけて着実に発達していく傾向がみられました。
さらに因子分析の結果、日独両国に共通する3因子構造が確認され、高次の心の理論が文化を超えた普遍的な認知的枠組みをもつことが明らかになりました。
研究の意義
本研究は、子どもたちは国や文化が異なっていても共通した心の理解の基盤を持つ一方で、その発達の道筋は、文化的な学習環境やコミュニケーションのあり方によって特徴づけられることを示しています。
本研究の知見は、子供の多様性を尊重した社会性教育や、文化的背景に配慮した教育プログラムを考えるうえで、重要な示唆を与えるものです。
関連Webサイト
『Child Development』:(2026年4月15日掲載)
共同研究論文(Christopher Osterhaus, Shingo Uchinokura, Hiromi Tsuji)
「Reading between the lines: Universal structure and cultural variation in advanced theory of mind」